永久磁石の種類と簡単な特徴
1.アルニコ磁石
磁石が工業生産され始めた1930年代に最も高性能として活用された磁石です。
材質は主として鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルトで、材料の頭文字をとって「Al・Ni・Co 磁石」です。
鋳造品のため「鋳造磁石」とも呼ばれます。
等方性(MCA)と異方性(MCB)の2種類のタイプがあります。
希土類であるコバルトを使用している関係上高価で、安く造形の容易なフェライト磁石に
主役の座を奪われ、近年使用されることが極端に減っています。
現在では、外部温度による磁気特性の変化が少ないため精密計器に用いられたり、キュリー点が高い性質を活かして高温になる部分での使用、
減磁の性質を活かして永電磁マグネットなどに利用されています。
2.フェライト磁石|Ba系・Sr系
現在、あらゆる分野で使用されているマグネットで、1970年頃から工業化されました。
主成分は製鉄の副産物である酸化鉄で、粉末を固めて焼いて作られる粉末冶金品のため陶磁器に近い性質を持っています。
そのため割れやすいという短所がありますが、様々な形状を作ることができ、
着磁前であれば切断・研磨などの加工も行えます。
原料が安いため、製品価格も比較的安価です。永久磁石の中心的存在として今日迄長く使われ続けている最も一般的な磁石です。
温度による磁気特性の変化率が比較的大きくなります。
等方性と異方性の2種類のタイプがあり、異方性は等方性に比較して約2倍程度の磁力を有します。
等方性磁石
どの方向から着磁しても同じ強さの磁石のことで、全方向に対して同じ磁気特性を有しています。磁石内部の結晶の向きは バラバラなのでどの方向からも着磁できますが、異方性磁石より低い最大エネルギー積となります。
異方性磁石
ある決まった方向から着磁する磁石のことです。成型時に磁界内で加圧することで内部の結晶の向きを揃えてあります。 磁化しやすい方向から着磁することで、等方性磁石よりも大きな力を得ることができます。
磁石の結晶は、平たい六角形をしています。この厚み方向に磁化すると強い磁石ができます。 |
3.柔軟磁石(ゴム磁石・塩ビ磁石・プラスチック磁石)
ゴム・プラスチック等と、フェライト磁石粉末や希土類磁石粉末の混合品です。
柔軟であり、切断・穴あけなどが容易に行えます。
成型したままで寸法精度が高く、鋳造磁石やフェライト磁石などではできなかった非常に長いもの、
平面の広いものが容易に製作できます。形状の自由度や精度、強度、一体成形可能などの点で非常に大きなメリットがあります。
磁石材料の温度特性はフェライト磁石とほとんど同様ですが、バインダーに熱可塑性樹脂を用いる分、磁力が落ちます。
4.希土類磁石
希土類金属(ネオジム、サマリウム、コバルトなど合計17元素)の粉末を成型してから
焼結した高性能なマグネットです。フェライト磁石に比べるとはるかに強力な磁気エネルギーを持っています。
近年、電子機器をはじめ、産業用各種機器において、小型化、高性能化の要求で、
希土類マグネットの性能が上がってきています。希土類元素である材料を使用していますので、非常に高価です。
希土類マグネットには、サマリウム・コバルトSm-Co系マグネット(通称:サマコバ)と、
ネオジム・鉄・ボロンNd-Fe-B系マグネット(通称:ネオジ)があります。
ネオジム磁石|Nd-Fe-B系マグネット
現在実用化されている最高の磁力を持つ磁石です。小さくても強力な磁力を有しています。
この磁石は、高い磁気特性と、主原料が比較的豊富なネオジムと鉄であるため、サマコバ磁石のよりも比較的安く製造できます。
なお、比重がサマコバ磁石よりも10%以上も低いため、実質エネルギー密度が高い磁石と考えられます。
さらに機械的強度が高いために、欠けや割れが少なく、取り扱いが容易です。
以上のように優れた磁気特性を持っていますが、鉄を含んでいるため耐食性が悪く錆びやすいので、メッキ等の表面処理が必要となります。
ネオジム磁石の使用温度環境に対する磁束量の変化はフェライト磁石よりも少ないですが、
サマコバ磁石と比べると変化が大きく特に高温領域で大きく減磁します。
要するに、熱に弱いため使用温度に注意が必要ということになります。
しかし近年では研究が進み、高性能な耐熱グレードのものも登場してきています。
サマコバ磁石|Sm-Co系マグネット
サマリウムとコバルトからなる合金で、材料の頭文字からそう呼ばれています。
1967年に開発された、世界初の希土類磁石です。
ネオジム磁石の次に高い磁力を持つ上に、優れた熱安定性を有しているため高温での使用も可能で、
まさに究極の磁石と言えるでしょう。
また、ネオジム磁石に比べて錆に強いため、ニッケルメッキなどの表面処理も必要ありません。
磁気異方性の優れた高保磁力の1-5系サマリウムコバルト磁石と、
磁気エネルギーの高い2-17系サマリウムコバルト磁石があります。
しかし原料であるサマリウム及びコバルトが希土類属の為、コストが割高で、
他の磁石に比べてもろく割れやすいという短所があります。
5.その他磁石
鉄・クロム・コバルト磁石
鉄・クロム・コバルトを主成分とする磁石で、その製造工程はアルニコ磁石とほぼ同じです。
最大の特徴は、アルニコ系磁石の特徴を有しながら残留磁束密度がさらに高く、塑性加工が可能な材料特徴を持っています。
また、コバルトの量がアルニコ系磁石よりも少なく、省資源型の磁石でもあります。鋳造磁石の一種です。
塑性加工磁石|Fe-Mn系・Fe-Cr-Co系
この磁石は、アルニコ磁石では難しい形状、薄板・線材などに適し、打ち抜き、絞り、カールなどにも自在な加工性に富んでいます。 Fe-Mn系の半硬質磁石と、Fe-Cr-Co系の永久磁石があり、Fe-Mn系は主にヒステリシス材として、Fe-Cr-Co系は計測機器などに使用されています。
マンガン・アルミ・カーボンマグネット
マンガン・アルミ磁石は、アトマイズ粉末合金を採用した高品質で量産性に優れた新しい磁石です。
マンガン・アルミ・炭素を主原料とし、資源的な供給不安が少なく、コバルトなど稀少元素を使わない汎用磁石の中でも機械的強度に優れ、
切削加工性と多様な着磁が可能な個性的な磁石です。
各種センサー、モーター、工具への応用により機能向上や新製品開発に貢献するエコロジーマグネットです。
プラセオジム磁石
プラセオジム磁石は、粉末工程を経ないで製造される異方性の高性能希土類磁石です。
機械的強度が大きく、引っ張り強度はネオジム系焼結磁石の3倍以上を誇り、割れ・欠け等はありません。
機械加工が容易で、穴あけ、ねじ切り、さらいなどを有する磁石が可能です。
しかも高温下での曲げ加工ができ、一定の厚みのセグメント磁石等が製作可能です。酸素含有率が低く、錆びにくい組成です。
プラチナ磁石|Pt-Fe-Nd系
プラチナ磁石は白金を主体にした鋳造磁石です。 希土類磁石に準ずる強力な特性が得られ、機械加工仕上げで高寸法精度が可能で、 腐食環境中でまったく表面変化しない、最高級の耐食性磁石です。 チップ欠けや割れが発生しないため、医療用具への応用面で関心が寄せられています。